あかりと共に ~キャンドル作家 阿部笙子さん

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インタビュー

電気の明かりを消して過ごす、キャンドルナイトという催しがあることを知ったのは何年前だろうか。ロウソクの灯りを眺めていると、心が安らぐことに気づいたのは最近の事だ。

宮城県仙台市で作品制作を始めて32年。ワークショップや、カフェでのキャンドルナイトなど、活動の場を広げるキャンドル作家 阿部笙子さんにお話を伺った。

阿部笙子さん

 キャンドルメーキングクラス主宰。

 1993年より 個展開催

 2000年より 音楽や朗読などとのコラボレーションを開始

 2012年より 月一回のキャンドルナイトを坐カフェにて開催

  キャンドルクラフト大賞、キャンドルクラフト最優秀賞、キャンドルライト賞など多数受賞。

キャンドルとの出会い

形がかわいらしいタイプのキャンドル。

阿部さんがキャンドル作りを始めたのは、お子さんが幼稚園に入った時期のこと。少しだけ子どもの手が離れ「自分だけのことをしたい」と思っていたところ、幼稚園の先生の繋がりからキャンドル制作を教える方との出会いがあり、教室の一期生として習い始めたのだった。10年ほどして個展を開催するようになり、全国のキャンドルコンテストで多くの賞を受賞。今年で制作歴は32年になる。

始めた当時は、キャンドル(ロウソク)といえば仏壇やクリスマスなど、特定のシーンで使われることが多く、生活に溶け込んでいるとは言い難い状況だった。キャンドルの魅力に引き付けられた阿部さんは、もっと使うシーンが増え、キャンドルのある生活が広がったらいいな、という想いで作品を増やしていったのだという。

「はじめは、それくらいの気持ちだったんです。でも、最近では火の力を知ってもらいたいな、と思うようになって。それと同時に、そんな言葉をスッと自然に受け取ってくださる方が増えているという感じがします」

実生活では火を使う機会が減っている現状に反比例するようだが、人には無意識に“火の力”を求める心の働きがあるのだろうか。

(ろう)の都合に合わせる 気力との勝負

キャンドルを作るには、とにかくタイミングが重要なのだという。温度が高すぎると融けてしまうし、冷めれば割れたり剥がれたりしてしまう。蝋の状態を見ながら、つまんだり、合わせたりして形作る。あじさいをモチーフにした作品では、花びらのような小さなパーツを100近く作り、土台に貼り付けていった。

「蝋の都合次第だから、なかなか途中でやめることができない。今日は土台、次の日にパーツ、また別の日に仕上げ……と、数日かけて作ることもあります。気力が必要です」

型に入れる作り方もある。星や卵といった可愛らしい形のものや、時には染料で色を付けるものなど、様々なスタイルのキャンドルができあがる。氷を使ったキャンドルは、ワークショップでも盛り上がる。細かい氷を入れた型に熱い蝋を流しいれると、氷が融ける。型から外すと、氷だった部分が水となって下にザッと落ち、たくさんの細かな空洞ができる。物質の変化を感じる楽しさ、そして火を点けたときの美しさが魅力だ。

「一応デッサンはしますが、そこは蝋の都合だから、デッサン通りにはまずならない」と笑う阿部さん。始めの頃はカラフルな作品も多かったが、最近は色数が減り、白が多くなった、という。キャンドルクラフトコンテストに出品する作品のタイトルも、ここ数年は『白い灯り』にナンバーを添える形で統一されている。

長年の制作を経て、形は年々シンプルになり、灯に対する見方も変わってきた。それについて語る時に、2011年に起こった東日本大震災の事を避けて通ることはできない。

震災で輝いた灯(ともしび)

(©今野貴之)

それまで、阿部さんのキャンドルは「飾って眺めている」という人が多かったのだという。しかし、震災時には使わざるを得ない状況があり、「初めて灯してみたのだが、きれいだった」という声が届いた。

キャンドルの形そのものが非常に美しいので、火を付けて形が変わってしまうことへのためらいがあることは想像できる。作家として、キャンドルの形が溶けて変わってしまうことについてどのように思うのかを聞くと、「生の花も変わるでしょう。花は枯れるし、花火もすぐに消える。それでもそれを愛でるように、キャンドルだって、変わっていく途中も楽しめる。だから、ぜひ灯してほしい」と、阿部さんは言う。

奇しくも震災をきっかけに火を灯し、新たな美を輝かせることになったキャンドル。その火が不安な心をどれだけ和らげたことか。実は、ライターもあの日、東京で阿部さんのキャンドルを灯した経験を持つ。揺れが続く中、真っ暗な部屋で火を灯した瞬間、思わず不安な気持ちも忘れて火に魅入ったことは忘れられない。

震災では、ご自身も大きなショックを受けた。住む地域は大きな被害を免れたものの、ライフラインが復旧するまでには数か月が必要だった。その間に目にする被災の情報は、阿部さんのみならず多くの人の心に深い痛みを残した。

今でも当時の話をすると、涙が出てきてしまうという阿部さん。大きな悲しみを抱えた阿部さんを再び前に向かわせたのが、キャンドルの制作だった。

火といる時間 自分を見つめる時間

(©今野貴之)

震災から年が明けたある日。海を訪れた阿部さんの心に、「キャンドルをどうしても灯さなければ」という気持ちが沸き上がった。以降、仙台市内の「坐カフェ」で毎月1回のキャンドルナイト、仮設住宅に住む方とのキャンドルづくりワークショップ、昨年の5月にオープンした七ヶ浜町の復興拠点カフェレストランSEA SAW での「音灯(おともしび)」など、多くの人に「火」を届ける活動を行っている。

キャンドルナイトでは、阿部さんの灯りの力に誘われて、ここで音楽を奏でたいという演奏家がやってくる。火の番人として当日も会場に足を運ぶ阿部さんだが、続けるうちに「これは、自分自身のためにも灯しているんだ」と、気づいたのだという。

人と共に、火を見つめる。そのちいさな温かさの傍らで自分の心を見つめる時間は、自分のペースでゆっくりと心を癒すものなのかもしれない。

「火のゆらめきを視界に入れると、なぜか集中できる。音楽でも、話し合いでも、そこにキャンドルを灯したら、より深いものになるのではないでしょうか」

確かに、火は音も匂いも発せず、何物にも邪魔しない。思えば人と火の関係は長い。「キャンプファイヤーで見つめる火にも、気持ちを開く作用があるでしょう。火というのは、昔からそういう力があるのかもしれない」、と阿部さん。

「考えに集中したくても、つい周りのことに心が奪われてしまう」と言う私に、こう話してくれた。

「自分の周りの状況を作っているのも、自分。自分の心をよく見ていくことが大切よね。火には、時間の流れを変えるような不思議な力がある。ある程度止まれたら、自分の内側を見られるのではないかな、と。火といる時間を週に一度、30分でもよいからみんなに持ってもらえたらいいなと思っています」

久々に、うちにあるキャンドルを集めて火を灯してみた。ゆらゆらと揺れる温かな炎は、見ていて飽きることがなかった。

この記事を書いた人

青葉まどか

仙台市出身。趣味は本、音楽、映画、という典型的インドア(元)少女。ライター。腰痛持ちだが、時々喫茶店で手伝いもする。「やるなら楽しく、真剣に」がモットー。

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