「やらなきゃ!」で母親と子どもの心に寄り添う~BOUKENたまご カウンセラー 葉原たか子さん

カテゴリ名:
インタビュー

国分寺駅南口から徒歩3分。商店が並ぶ、都営住宅の1階に国分寺市東部地区拠点親子ひろば「BOUKENたまご」がある。ここでカウンセラーとして働くのが、葉原たか子さん。自身の子育てを通して知った“外遊びの楽しみ”を広めるための活動が、次から次へと「やらなきゃ」に繋がり、現在に至る。その、意外なパワーの湧水点を探った。

子育て仲間と 「ないから、作る」「やってみよう」

葉原さんが子育てをしていた当時の国分寺では、自主保育※1が盛んだった。自分の子どもと仲間の子どもが共に遊び、母親同士で見守り合うという関係はとても心強く、温かい。自分の子以外の子どもと遊ぶということも、新鮮な体験だったという。

皆でよく遊びに行った屋外の遊び場「国分寺市プレイステーション」※2では、思い切り外遊びを楽しんだ。もともと葉原さん自身は外遊びを多くしてきたわけではなかったが、子どもと遊ぶ中、風を感じ、身体を動かす楽しさを発見した。子どもと共に外遊びの良さを実感した葉原さんが、ボランティアとしてプレイステーションのスタッフとなり、手伝うことになるのは、自然な流れだった。

(イメージ)

そんな折、プレイステーションの運営財団が財政上の理由から撤退を決定し、継続が危ぶまれるという事態が発生する。葉原さんや仲間たち、また、プレイステーションを利用してきた他の団体などが存続のために集まり、ついに「国分寺冒険遊び場の会」を立ち上げた。これを機にプレイステーションは市の教育施設となり、そのための条例も制定され、会はNPO法人として新たなスタートを切ることとなった。

ほぼ同時期、葉原さんは、プレイステーションのエッセンスを他の地域の子どもたちにも届けたい、という想いで行われていた「プレイキッズ」にも携わる。週に1回、市内の公園に道具を積んで行き、火を興したり木工をしたりする場を作る。学校から帰った小学生たちに大人気で、現在も多くの子どもたちが利用しているが、この活動にも、助成が切れ、危機が訪れたことがあった。その際も、関わるメンバーの「必要だから」という強い気持ちで、揺らぐことなく乗り切った。

新しい形のプレイステーションが軌道に乗り、プレイキッズが活況を見せる中、葉原さんたちの目は既に次の場所を見ていた。放課後はこんなに子どもが遊んでいるけれど、午前中の公園には誰もいないことに気づいたのだ。

「幼稚園入園前の子どもたちは、どこで遊んでいるんだろう?」

そんな気づきから、午前中に公園で遊ぶ親子広場「ブンブンひろば」が生まれた。

これらの始まりはみな、葉原さんや仲間たちから自然に上がった「やろう!」の声だった。プレイキッズもブンブンひろばも、後に市の委託事業となり、現在まで続いている。

葉原さんたちの「やろう」はそれだけでは終わらない。

「公園に小さい子どもやお母さんが少ないのは、外遊びの楽しさを知らないのかもしれない、と思ったんです。だとしたら、それを伝えるのは2-3歳のころではなく、もっと小さい頃がよいのではないか、と」

考えた末に生まれたのが、室内の親子広場「BOUKENたまご」。都の空き店舗対策事業の助成を受け、駅前にお母さんと乳幼児が集まれる場所としてオープンし、今年で14年になる。

※1 就学前の子どもたちを、親同士で見合う活動。

※2 誰でも利用できる、国分寺市の無料の遊び場。プレイリーダーが常駐し、子どもたちの遊びを応援・手助けする。木や草、土や虫などの自然をできるだけ残し、畑や火の体験ができる場所、工作道具などもある。 

カウンセリングの知識を活かしたい 思い続けてすべてが繋がる

葉原さんの大学時代の専門は、心理学。卒業後は、青梅市の教育相談所で子どもの発達に関する相談やセラピーなどの仕事をしていた。2人目の出産を機に仕事は辞め、子育てに専念。いつかはまた専門を活かした仕事もしたい、という想いは抱いていたものの、子どもが小さい頃はなかなか余裕がなかった。

やがて子どもに手がかからなくなってくると、「またカウンセリングの仕事をしたい」という考えが再び頭に浮かんでくる。が、プレイキッズやプレイステーションで遊びを通して子どもたちと関わり続ける日々が、その後しばらく続いた。

この時期は、「自分がどこに向かっているのかわからないという、悩みや焦りがあった」と、葉原さんは振り返る。週に数回のボランティアとして関わるだけの在り方に、物足りなさや「何ができるのか」という焦りを感じ始めたのだという。

翻訳の勉強をしたり、心理学の講座の添削をしたりしながら、「仕事としてカウンセリングをもっとできないだろうか」と考える。一方で、子どもの遊びへの関わりや今までやってきたことも、手放したくはない。

ちょうどその頃、先に紹介した「ブンブンひろば」の立ち上げの話が出てきた。仲間たちと葉原さんの念頭にあったのは、気楽に相談ができるような仕組みが必要だということ。自分たちは自主保育のなかま同士でちょっとした子育ての悩みを相談しあってきたけれど、今のお母さんたちにはそんな「なかま」が少ない。そこで「ブンブンひろば」には、わざわざ予約をしなくても、遊びに行ったついでに気軽に相談のできる場にしようと、カウンセラーをおくことにした。葉原さんの願いと活動の場が、ここで繋がったのだった。「これまでそばで私の“モヤモヤ”を感じていた仲間が、『さぁ出番だよ』と言ってくれたことが嬉しかった」と葉原さんは言う。

実際にやってみると、青梅時代との違いを感じた。青梅でのスタンスは、子どもに寄り添い、お母さんにはそれぞれの子どもに合った“子育てのアドバイス”をする、というもの。しかし、ブンブンひろばではお母さん自身の大変さに寄り添う、という立場に変わった。ひとつひとつは小さな悩みでも、それが積み重なると大きな苦しみになることを感じ、改めて大人に対する心理学についても学び直した。

その後、乳児健診での相談など、少しずつ専門的な仕事が増え、活動場所は広がっていった。BOUKENたまごでは週に2回、カウンセラーの日を設けて相談を受ける。さらに、国分寺の子育て応援パートナー(利用者支援専門員)の東部地区担当としても活躍。市内各地を回り、子育ての悩み相談や子育て情報の紹介など、母たちの声を聞き、共に考える活動をしている。

母親としての共感と、カウンセラーとしての視点。両方を持った葉原さんのカウンセリングは、母たちの気持ちを楽にする。あるお母さんは、「じっくりと、否定せずに聞いてくれる。それだけで、心の荷が下りて前向きになれた」という感想を聞かせてくれた。

ぐるぐるとした悩みの時期を抜け、「やりたいこと」と「できること」を両立させた葉原さん。その丁寧な心の寄り添いは、地域の母たちの支えとなっている。

 

次の「やらなきゃ」は孫育て世代のサポート?

BOUKENたまごのスタッフ/カウンセラーとして常駐、子育て応援パートナーとして各地を回る、という充実した毎日を送る葉原さん。「仲間とは、次世代を育てないと、と話しています。私たちはそろそろサロンでも開いて集まろう、なんて」と笑うが、最近でも「孫育て講座」を自主企画として開催するなど、まだまだ活動は盛んだ。 

「孫育てをする方に、最近の育児事情や今特有の苦しさなどを知ってもらおうと企画したんです。ところが、『これだけやっているのに感謝されない』、『子どもにどう伝えるべきか』など、孫育てをする方々にも悩みがあることがわかってきて。これからは、子育て仲間だけではなく『孫育て仲間』も必要かも……」

葉原さんの「やらなきゃ」が、また新たに始動する日も近いのかもしれない。

これから小さい子どもに関わることをやってみたい、という人へのアドバイスを尋ねると、

「外で『ちょっと大変そうだな』と思ったら声をかける、ということからでもよいと思いますよ」とのこと。また、子育て広場で読み聞かせや手遊びをする、ファミリーサポートセンターの見守り会員になる、などの関わり方もある。

「シルバーという言葉に引っかかるかもしれませんが、シルバー人材センターにできることを登録するというのはおススメです。ファミリーサポートと違い、子どものことだけでなく、料理を作ったり、洗濯ものをとりこんでおく、ということもやってよいので、お願いする方としてもとてもありがたい。今はお孫さんがいても仕事をしていて手伝えないという方も多いので、『遠くの実母より近くのサポート』という感じかな(笑)」

※3 ファミリーサポートセンター事業:乳幼児や小学生等の児童を有する子育て中の労働者や主婦等を会員として、児童の預かりの援助を受けることを希望する者と当該援助を行うことを希望する者との相互援助活動に関する連絡、調整を行うもの(厚生労働省HPより)


ライター自身、子どもが生まれて数カ月のころからお世話になったBOUKENたまご。母たちの「やらなきゃ」で始まったのだとは、知らなかった。とても穏やかに話す葉原さんだが、カウンセラーとしての冷静な視点と共に、世の中の“必要”を人任せにしない、熱い芯が通っているのを感じた。

この記事を書いた人

青葉まどか

仙台市出身。趣味は本、音楽、映画、という典型的インドア(元)少女。ライター。腰痛持ちだが、時々喫茶店で手伝いもする。「やるなら楽しく、真剣に」がモットー。

▼青葉まどかの「気になるひと・こと・場所」を巡る▼

インスタグラムで広がる 「好き」の心とおもてなし 〜 海外旅行者向け料理教室 At home with Nahoko  主宰 さなみなほこさん〜
東京、国立市で海外旅行者向けの料理教室を始めた、さなみなほこさん。Facebookなどで紹介される彩り鮮やかな料理は和食から韓国、中華、エス...
あかりと共に   ~キャンドル作家 阿部笙子さん
電気の明かりを消して過ごす、キャンドルナイトという催しがあることを知ったのは何年前だろうか。ロウソクの灯りを眺めていると、心が安らぐことに気...
発酵の力への信頼が生む、おいしさと安らぎ〜発酵料理研究家 青木光左代さん
先人たちの知恵であり身体にも優しいとあって、近年改めてそのパワーが見直されている発酵食品。 大学で学んだ知識を基に、発酵食品を利用する...

最新記事一覧